vol.119
佐藤貢 Mitsugu Sato
108 Crosses
2019.5.18 - 6.2
選択と集積=祈りと作品
先日、大規模修繕工事中のパリのノートルダム大聖堂が燃えた。原因は作業員の煙草の不始末だったらしい。聖域とされるその場所で、フランスのまた西洋の精神的中枢を保ってきたとされる歴史的宗教施設でのその出来事は、人々の心に眼に、深い衝撃をもって焼き付いた。この世界は真逆ともいえるものを多く抱えこむ。日々の祈りの場であるはずの大聖堂で、労働者が祈りなき作業を積み重ねたかのように。
アートは作家の生き様からこぼれ出る表現であると同時に、時代や人の内面を映し出す鏡でもある。それは芸術本来の役割であるともいえる。佐藤貢はそれをほとんど寸分違わず理解し、本能で生き抜いている。佐藤貢の受動的ともいえる行動の数々は大凡のアーティストたちとの選択とは違うであろう。展覧会前の最も忙しい時期であっても困っている人がいれば助けに行き、誰もいらないと見捨てられ、葬り去られる運命のものたちがそこにあるから、拾う。その選択の集積によりできあがる日々、そして作品。その日々の選択の集積こそが祈りであり、ゴミを昇華させ、場を変容させる力を備えるのである。
今回の「108 Crosses」は、2016年から続いている佐藤のテーマでもある。混沌としたこの時代に西洋と東洋、宗教、思想さえも垣根を超え、人として何を選択し(祈り)どう生きるのか、そんなことを突きつけられるような気がしてならない。
Gallery NAO MASAKI
正木なお
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目の前には混沌とした世の中があるように、その混沌は自分の中にもある。世の中では役目を終えて、捨てられて、見向きのされなくなったもの。そういうものこそ、自己の意識を投影する鏡のような存在であるように感じている。
佐藤貢
美術家/1971年
大阪生まれ。大阪芸術大学美術学科中退後、中国よりアジア諸国、アメリカ、中南米諸国などを放浪。1988年、和歌山市へ移住後、漂流物を用いて作家活動を再開。2005年に大阪での個展を皮切りに東京、名古屋などで展覧会を開催。2010年、名古屋に移住。
「漂流物を拾ううちに、自分こそが漂流物であることに気がついた。」と佐藤は言う。2014年、2016年、自身の数奇な人生を綴った『旅行記・前編/後編』が出版され話題を呼ぶ。
主な発表、lim Art、森岡書店、ボヘミアンズギャラリー(東京)、iTohen(大阪)、星ヶ丘SEWING TABLE COFFEE(枚方)、コロンブックス、Gallery NAO MASAKI(旧 gallery feel art zero /名古屋)など。主なグループ展、『Art Court Frontier 2010 #8』(大阪)、『ポジション2012名古屋発現代美術』招待出品(名古屋市美術館)、『電気文化会館30周年記念事業
THE NEXT~次代を創る10人の表現者たち~』、『 ギャラリー矢田ライブvol.20+展覧会 あいちからの発信/発進 』(名古屋)など。
Gallery NAO MASAKI(旧gallery feel art zero)にて
<個展>
2016「揺らく形」、2011、2009
<グループ展>
2015「日常、あるいは非日常の風景」、「something new,with feel art 10」
2013 「The book as ART ; 本のイメージ、あるいは抽出されたカタチ。」
2012 「アーティストによる家具展」