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vol.121

Lintalow Hashiguchi ・Sadaharu Horio

ハシグチリンタロウ・堀尾貞治

「ALIVE 生き続ける芸術」

2019.7.27 - 8.11

昨年80歳を目前に逝去した美術家・堀尾貞治は1960年代半ばから具体美術協会のメンバーとして協会解散まで活動した。その後も日々の中に芸術を通じて真理を求める堀尾の活動は、「あたりまえのこと」という主題となって、その生を終える前日まで朝一番に行われる「一分打法」と呼ばれる業とも思えるような平面作品制作や、「色塗り」と題し、一日一色一本のアクリル絵の具をアトリエ中に所狭しとぶら下げられた作品に塗り重ねていく作業として毎日続いていくこととなる。

いわゆる生きる痕跡としての作品たちは膨大な数となり、時には形に留めるよりも、今そこに在ることに焦点を合わせるため残らなかった物も多い。堀尾のいう「あたりまえのこと」は「空気」のことだという。生きていく上でなくてはならない、しかし、普段は気づかれることもなくただ存在しつづける「あたりまえのこと」を無垢な心で生涯、真実を追い求めた姿こそが彼の遺した芸術であろう。

一方、堀尾が一生の主題を求め始めた1985年、ハシグチリンタロウは長崎に生を授かる。パンクやロックのビートやワードを起爆剤として、幼少期から始めた書を媒体に、言語化できない日々の感情や感覚を断片的なキーワドや記号を手掛かりに書きなぐるように制作する。現代書家井上有一の「書は万人の芸術である」という言葉に感銘を受け、高価な筆を捨て、身近なタオルを使って大型の作品を身体いっぱいで制作する姿が特徴的だ。ハシグチリンタロウが近年取り組む作品シリーズ「POORMEN,COSMYTH」の「POORMEN」とは、現代社会の片隅で生きるひとりの人間としての自己のことであり、また様々な条件によって可能性を見失いかけている人たちのことである。COSME(化粧)とMYTHOLOGY(神話)からなる造語は、かつて古代人や神話の中で、人間が獣の姿をかりて野生を畏れ、尊び、在る種その力さえも取り込もうとしたであろうことから着想し、自分自身を変容させる力として作品に向かう。何度も繰り返されるその異型の文字は、同時に異型の生命体の姿の様にも思える。

ハシグチ、そして46歳年上ではあるが堀尾も、その日々の思想や着想を膨大なノートに書き綴る。世代の違う二人の稀有な芸術家たちは実際には出会うことなく、しかし多くの類似点を持つように思う。生きる痕跡としての芸術の姿を存分に現している作品の数々は今も生き続け、新たに生まれ結ばれようとしている。戦後の前衛芸術にも影響を受けたというハシグチリンタロウ作品が、前衛芸術運動家として生き抜いた堀尾貞治作品と共に会場を埋め尽くす今展はALIVE、芸術は生きているという他ない。混沌とした現代において自身の葛藤から目をそらさず真理を求める二人の芸術家の姿は、問いと抗いとして私たち現代人の眠っている野生を呼び覚ますような本質的な衝撃を与えてくれるであろう。

Gallery NAO MASAKI 正木なお

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ハシグチリンタロウ Lintalow Hashiguchi [1985- ] 

1985年 長崎県生まれ。2004年 福岡教育大学 書道課程に入学。

10代の頃に音と感情と言葉が混然となったパンクロックに出会い、創作活動の原点的な体験となる。伝統的な書道技術や美意識を学ぶも、60年代の舞踏や具体、岡本太郎などの前衛芸術に影響を受ける。特に前衛書の井上有一には多大な影響を受け、「書は万人の芸術」であり「日常から生まれた、日常を生きるためのエネルギー」との考えに至る。2008年 福岡 IAF shop*で初個展開催。以後精力的に作品発表を行う。2012年 日常から遠くなり高価な伝統的な毛筆を使うことをやめ、身の回りにある安価なタオルで書くようになる。2015年 井上有一の顕彰展「天作会」メンバーに抜擢。2016年以降はロックの音に着想を得て、アルファベットやギザギザとした音の波形のような作品を制作。2018年 日本初の書道専門の現代アートフェア「ART SHODO TOKYO」に選出、2019年新宿ルミネアートアワードにてグランプリ受賞、注目される。

Gallery NAO MASAKIにて- 

〈グループ展〉2019 「現代の書 ART SHODO 3人軌跡」

堀尾貞治  Sadaharu Horio [1939-2018 ] 

1939年神戸市生まれる、兵庫県在住。1965年具体美術協会会員となり1972年解散まで参加。

《主な展覧会》2002年 堀尾貞治あたりまえのこと(芦屋市立美術博物館)、 2005年 横浜トリエンナーレ 、2005年 堀尾貞治+現場芸術集団「空気」連続82日のパフォーマンス、 2013年 Gutai: Splendid Playground オープニングパフォーマンス (グッゲンハイム美術館 /ニューヨーク) 、2014年 堀尾貞治「あたりまえのこと<今>」( BBプラザ美術館 / 神戸) 、2016年 A Feverish Era in Japanese Art/ BOZAR (ブリュッセル美術センター/ ベルギー・ブリュッセル) 、 2017年 東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」堀尾貞治+現場芸術集団「空気」(京都) 、2018年 Axel Vervoord Gallery個展(ベルギー・アントワープ, 香港)

1985年頃から「あたりまえのこと」という一貫したテーマのもとに年間約100回に及ぶ無数の個展、グループ展、パフォーマンスなどを国内外で行う。2018年11月死去。

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