vol.128
はじまりの土
金憲鎬
2020.9.11 - 9.28
「はじまりの感じがしていて、いま、新しい土を作っているんだよね。」
表現者としての生き方を貫くキムホノ氏らしい言葉をもらって迷っていた気持ちがふっと消えた。
長らく展覧会を企画できずに、でもこの時、この感覚を待っていたような気がする。
「焼き上がったから見に来て。」という連絡が入り、はやる気持ちを抑えながら山の中のアトリエを訪れる。そこにはキム氏が心のままに向かったかたち_素直さ、温かさ、静かだけれど内側に熱い熱量のあるかたちが生まれていた。「今しかできないものをつくりたくて。シンプルだけど、土の中から生まれてくる感じを創りたいと思ってる。」土を捏ね、丸め、内包する何かを手探りで引き出すような作業の積み重ね。土を扱うものとして原初的な行為を探求しようとする姿のようだった。そして一人の、人間キムホノとしてのアイデンティティーを解放する。
わたしたちはそこに気持ちや自分自身が発する熱を重ね、辿る。蠢く感じや溢れるかたちを感覚でつかむ。触れると心の蓋ががポンと開く音がする感じがした。そうして人ははじまりの時をきっと一緒に辿るのだな…作品を預かり、撮影を終えて写真ができてきたときにさらに確信した。カメラマン、デザイナー、そしてここで、あるいは空を通してこれからご縁を結ぶであろう人たちのことを想いながら、感慨深く数カ月ぶりのギャラリーでの展示の準備をしている。キムホノの魅せるはじまりの土の時間が、すぐそこにある。
Gallery NAO MASAKI 正木なお
[金憲鎬 Kim Hono ]
1985年 愛知県瀬戸市生まれ
愛知県窯業高等職業訓練校を終了後、瀬戸の窯元に勤める
国内外にて個展、グループ展多数開催
日本陶芸展, 日本伝統工芸展, 八木一夫賞陶芸展, 朝日陶芸展, 中日国際陶芸展,国際陶磁器フェステイバル美濃, 東海伝統工芸展, 長三賞陶芸展 など受賞歴多数
Gallery NAO MASAKIにて(旧gallery feel art zero )
<個展>
2012 イロノヨウナ カタチノヨウナ
2017 白 | 黒 Blanc Noir