vol.60
佐野奈月 Nazuki Sano
線 と 刻
2013.7.20-8.4
己の脆弱さと内面の激しさを秘めた線。向かい合い、没頭し、無心になり、生まれる静かな刻(トキ)。
佐野奈月の版画の持つ魅力。一枚の版と紙とは思えない様な深さが映し出される瞬間があるのだ。
彼女が惹かれて止まないという、時を経たものたち…
朽ちた壁、落ちている小石、欠けた器、乾いた木片。時を経たものだけがもつ深み、彼女はそれを自分の作品に映し出そうと無心に試みる。その試みに無論終わりはないだろう。そういうものに魅せられていることを本人は気付いているのだろうか?
果たして作家の意図するところとは違うものかもしれないが、私は、その危ういまでの均衡の作品たちの中に彼女の一瞬の「時」をみつけてハッとする。
時と刻。
版に線を刻み付けるその行為は、まさに時を重ねる一瞬一瞬に違いない。作家は無我の意識で、己の内側の時間を刻み続けているのだ。
佐野奈月の作品をみながら、生きることは、そういうものだったことを思い出している。
正木なお
佐野奈月 Nazuki Sano
1970 岐阜県瑞浪市生まれ
1992 名古屋造形芸術短期大学版画専攻科卒業
1992-1994 版画工房moku在籍、アジア各国を旅する
1995-1998 名古屋造形芸術短期大学版画研究室助手
1997 第2回西脇サムホール大賞展(西脇市岡元山美術館)
1998 第4回さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ(北海道立近代美術館)
1999 第48回豊田市美術展(豊田市美術館)
第8回浜松市美術館版画大賞展(浜松市美術館)
2000 第49回豊田市美術展 奨励賞 受賞(豊田市美術館)
2002 デンマークで滞在制作・発表、特別講師を勤める
-1990年代より愛知を中心に個展、グループ展開催。
2000年よりデンマーク・スウェーデン・エジプト・フランスにて発表。